処方箋チェック

私は薬局窓口そばのカウンターでカルテと処方箋を並べてにらめっこをくりかえしていました。カルテには医師が処方した薬が手書きで書かれています。一方、処方箋にはそれと同じ内容の薬品名が印字されて、整然と書かれています。

まずカルテに書かれた内容と同じことが正しく入力され印字されているか、またその指示内容が正しいかどうかの確認です。

今、病院では多かれ少なかれ、コンピュータが導入されています。中田病院でも医事・会計作業にコンピュータが使われています。医師は診療内容を手書きでカルテなどの書類に書きこみます。人にはいろいろな癖があり、字体はさまざまです。おまけに漢字、ひらがな、カタカナをはじめとして、英語、ドイツ語など入り乱れています。薬剤師が注目する薬品名や用法などもしかりです。おまけに薬の名前は製薬会社が自社のイメージでつけているものが多く、何語由来かも判別できないものもあります。

「これはワンアルファです。ワーファリンではありません」 

「これはvdendeではないです」 

「チョット待ってください。この薬は1日に6錠使うことは、ないです」 

「解熱鎮痛剤が2種類出ています」

「この坐薬の用い方がぬけています。高熱時や痛みが激しい時と明記しなければいけません。それに患者さんの年齢から見て、1回量が半個かもしれません」

このようなやりとりを医事課や医師と何度も繰り返すことがあります。内容変更は必ず確認しながら行なわれます。この作業を、私たちは処方箋チェックと呼んでいます。  

コンピュータが導入されていない時代、この作業は行われてはいませんでした。医師がカルテの記入と同時に処方箋の記入も手書きで行っていたからです。この場合二度同じことを書くことになります。そこで、カルテと処方箋用紙を重ね、その間にカーボン紙をはさんで書くことが、多くの施設で行われていました。

また、コンピュータが入っても、病院内で調剤した薬を患者さんに直接渡していたころは、処方箋とカルテとの照合をほとんど行っていない病院が多かったようです。これは患者さんと対面しながらお薬をお渡しできるので、すぐ対応が出来たからとも考えられます。

今コンピュータが入り、その上、院外処方箋が発行されるようになりました。患者さんは病院外の薬局へ処方箋を持って行き、薬を調剤してもらうのです。まったく病院と薬局が別の施設となります。そこで病院としては、正しい処方箋作成に心を砕くことになります。患者さんに間違いなく薬が渡されるためには当然の仕事と、私には思えるのです。

ここでちょっと患者さんの待ち時間についてふれてみましょう。

患者さんは病院に一歩入られた時から、「待つ」ことを強いられます。受付、診察、いろいろな検査、会計などに至るまで、いちいち待たされます。院外処方箋はほとんど会計の時、領収証と一緒に患者さんへ渡される施設が多いようです。中田病院ではコンピュータ入力後、冒頭に書いたように、処方箋チェックを行っています。患者さんは往々にして診察までは実に辛抱強く待ってくださいます。しかしひとたび診察が終われば一刻も早く帰宅したいのです。これは患者さんの体調を考えれば当然のことです。となると、処方箋チェックは待ち時間短縮には貢献できないわけです。

ほんの数分間とはいえ、処方箋チェックのせいで待ち時間が増え、さらに調剤薬局へ行く手間、そこでの待ち時間もあります。相変わらず待ち時間短縮は、どちらの施設でも永遠の課題です。

昨今、医療事故が多く報道されています。事故などのリスクを減らすためにも、やはりこの処方箋チェックはまだ続けるべき仕事だと思いながら、毎日を過ごしております。

 

※語注


ワンアルファ=骨・カルシウム代謝薬。骨粗しょう症などに用いる。

ワーファリン=抗血栓薬。各種血栓塞栓症に用いる。

vde=ドイツ語。Vor dem Essenの略。薬の服用時間を指示する用語。食前約30分以内の時間を意味する。

nde=ドイツ語。Nach dem Essenの略。薬の服用時間を指示する用語。食後約30分以内の時間を意味する。