講演旅行 その2

2003年10月21日朝10時すぎ、穏やかな空の旅を終え、飛行機は新千歳空港に着陸しました。荷物を受け取ってロビーに出ると迎えの車が来ており、一路、N病院へ向かいました。ほどなくなだらかな丘陵の、鮮やかな紅葉の景色にさしかかり、すっかり秋を堪能したのです。

N病院は三次救急*も担っている約500床の大規模病院です。病院に着くと理事長のN先生やH氏に迎えられ、挨拶の後に病院内レストランで昼食をとりました。その後、看護部長と薬剤部長の案内で院内見学となりました。

緩和ケア病棟はゆったりした施設で患者様への配慮が十分なされている様子に感心。併設の老健施設やPET検査室*、救急センターなど。特に検査の方を受け入れるセルフケア病棟では、家にいるようにくつろいでいただこうという考え方を具体化しており、「なるほど」と納得。また患者様が自分の病気について十分知識を得ることを支援する健康情報ライブラリーは、蔵書700冊、ビデオ200本を有し、ボランティアさんもかかわって運営されていると伺い、思わず「ウーン」とうなってしまいました。

また看護職は、その病棟や部署によって制服を変えており、話し方や態度までも患者様や家族への配慮を考える教育が徹底している様子を、よくみてとることができました。

薬剤部は薬剤助手を多く採用していることが目立ちました。彼らは清掃・整理整頓をはじめとして、主に調剤の前後の作業を受け持っているようでした。助手を導入することには私も反対ではないのですが、同様なことを考えて実行している病院を初めて目の当たりにしました。PETの検査薬を薬剤師が検査時間に合わせて作ることや、輸血前の交差試験を行うこと、さらに当直も行うことなど、彼らの多忙さを感じました。

これだけ大きな施設ですと、かいつまんで見るだけでもほぼ三時間半もかかりました。

さて翌日の午前中、私は講演のおさらいをしました。そして午後、いざN病院へ出動です。100人以上が入りそうな大きな講堂には、もうチラホラ聴衆が見えていました。

職員研修会なのに立派な垂れ幕が張られ、それには第545回研修会として演題名と私の名前が書かれています。研修を重要視している姿勢が改めて感じられました。とてもありがたい気持ちが湧き、私はニコニコ顔で『医療現場における薬剤師の可能性を考える』を語り始めました。

まず自分が現在働いているスタイルがいかに出来上がってきたか、なぜ薬剤師と関係のないように見える肩書が私にあるかにも触れました。そして、院内感染防止対策、褥瘡対策、医療安全管理対策、輸血管理対策や教育研修などの委員会活動への、薬剤師の関わりも説明しました。これらの活動は今やどこの病院でもとても重要な事柄ばかりですから、皆さんは熱心に聞き入ってくださいました。

途中の息抜きには、薬包紙の折り方を折り紙教室ふうに行いました。これはこのN病院が災害時の地域センター病院に指定されているとうかがっていたので、災害などでの停電時でも薬を手作りできるようにと思ったからです。皆さんが折り紙を折ってくださり、雰囲気がいっそう和やかになりました。

薬剤師の活動を主とした講演ですから、私としては薬剤師が見識を広く持ってさらに他の職域スタッフの中に入り、連携プレーをよくすることで患者様への貢献ができると、率直に話したわけです。こうして約一時間半の講演は無事終了しました。

その後、北海道をイッパイに感じる海産物をお土産にいただき、夜10時過ぎ帰宅しました。あわただしい日程でしたが、多くの方々と出会え、有意義な講演旅行でした。
 

三次救急= 重症の患者、複数診療科領域の診療が必要な重篤な救急患者を24時間体制で受け入れ、高度医療が行える診療体制をいう。
PET検査= 特殊な薬剤を注射し、その薬剤から放出される陽電子で病巣をさがしたり、体の機能を調べる検査。X線やCT、MRIなどでわからなかった病巣の発見に有効。